また、おばあちゃんの欝が始まった、ようだ。
ダンナの姪が結婚することになり、おそらくはその辺が原因だろう。せっかくの結婚式だというのに、眼の手術を理由に出ない。先生は大丈夫だと言っているのに、本人が出たくないのだから仕方がない。わたしも母の容態が旅行から戻るなり急に悪化して、もしかすると出れなくなるかもしれない、と伝えたときには元気だったのに。
その辺のところがむずかしい。母は個室に移ったままだが、今のところ息をしているらしく、その昔、わたしは老人病院のわるぐちを言っていたが、看護師さんの話を聞いているうちに、それはもはや仕方がないのだと思えるようになる。
人間は、呼吸が止まり、その後しばらくして心臓が停止するそう。母の場合、このところ無呼吸が断続的に出るようになり、最初のうちは10秒間隔だったのが、近頃では20秒くらい停止するようになり、個室に移ったばかりの頃は血圧が70にまで落ち込み、心停止に至っても不思議はない状態だったが、このところ落ち着いている。
看護師さんの話によると、自然死というのはそういうもので、静かに無呼吸の状態が続くようになり、やがて息が止まり、そして、心臓がゆっくり停止する。何かの疾病が原因で、延命治療をしていると、そういうことがわからない。そういう状態になるから、酸素マスクをしたり、心臓に注射をしたりするのだということが、何となく理解できた。
老人病院の場合、すでに延命治療はしないから、ある朝気がついたら患者さんが亡くなっていた、ということが起こり得る。家族も了解しており、その理由も、母の入院生活が長くなるに従い、理解できるようになった。
すでに、数回、心臓が停止しているにもかかわらず、母はこの世に舞い戻り、今回も呼吸が停止したにもかかわらず、再び戻ってきたようで、母がいるのは老人病院ではないが、すでに延命治療をする意思が家族の誰にもないほど長生きしているため、母の死がいつ訪れるのかは、医師も看護師も、誰にもわからない。そのくせ、いつも慢性的に危篤が続いているため、実は、今回もあちこちに連絡したのがだ、どうやらまた狼少年になってしまったようだ。
そういうことの繰り返し。
最初の頃はともかく、おばあちゃん、つまり、姑さんにしてみれば、皆が寝たきりの母のことで大騒ぎしている状態になると元気になり、また今度のように状態が落ち着いてしまい、めいめいの生活に埋没していくと元気がなくなる。
そういうことの繰り返し。
わたしだって、いつも母の心配をしていたいが、正直、今はそれどころではない。よく、ちまたで、仕事が忙しくて、という言い方をするが、まさしくそういう感じ。事業計画書を書いたり、業者と打合せをしたり、役所への手続きのことやら法律のことやら、人を雇用しようとすれば、それに対しても責任があり、ここで躓いたら、ほかの人たちにも迷惑をかけてしまう。いろいろな意味で、そうやって社会はもちつもたれつ存在しあっているのだろう。
その輪から外れた生活に慣れているせいか、自分でもそういう状態がいつまで続くのか自信がない。今までの遅れを取り戻すように、毎日コツコツいろいろなことを勉強している。いや、ここまでくると、コツコツではなく、それこそ試験前の一夜漬けのような状態の日々が続いている。だから、これ以上それ以外のことを考えている時間的余裕が欠如しているのも事実だろう。
ここまでぼぉ〜っとしていると、知り合いの大工さんに業者の見積もりが高いとこぼしたら、今、資材が値上がりして、大手が買い占めているから部材が仕入れられないという話に驚く。その大工さんの場合、自分の家も建てている途中なのに、部材が手に入らないから、お客さんの分を優先し、自分の家がいつ完成するのかわからないとこぼしていた。本来だったら、とっくの昔に完成していると思っていたのに、仕事が優先。しかも、1週間ごとに見積もりを書き換えている状態が続いているらしい。今年の12月まではそういう状態が続くと言っていた。
次にガソリンスタンド。
あまりにもこのところのガソリンの値上がりが激しいので文句を言ったら、12月までは仕方がないと店員さんが言っていた。そのくせ、文句を言った数日後には2円ほど安くなっている。こらこら・・・
便乗値上げではないかと疑ったが、「戦争やっているから仕方がないわね」と捨てゼリフを残したのが効いたのだろうか。いかにも、「12月までは家計を引き締めなければ」という風に響いたのだろうか。いずれにせよ、今月中にガソリンを入れる予定はない。ちょっと悔しい。
そういえば、一昨年、11日に出発するから少し不安になったのを思い出した。まさかね・・と思っていたら、本当に11日にテロ騒ぎ。自分がすでに旅行を終えているせいか、それすら空しい。
おばあちゃんの話は、もっと空しい。
よく知らないけど、一人で孫の結婚に反対している。でも、誰も気にしないところが、さらに空しいではないか。まあ、娘の結婚なら親が反対したらそれなりに大変なことになるだろうけど、孫の結婚となると蚊帳の外。
わたしは詳しいことは知らないが、相手の人がどこかの企業にお勤めするサラリーマンで、結婚してもしばらくは共稼ぎになるらしい。彼女もまだ若いし、今はそれが普通ではないかと思うのだけど、おばあちゃんの世代からしてみたら、高い学費払って美大まで出して、あげくまったく関係ない仕事をして、結婚しても共稼ぎしないとやっていけない、というのが許せない。
他人にとってはどうでもいいこと。いや、今はわが子だとしても、それが普通のような気もするし、年寄りが集まったら、それはいつまでも普通ではないのかもしれないし、わたしは話についていけそうにない。
いや・・・わかってるのよね。要するに、皆、仕事があって忙しいし、しかも、娘が結婚するとなったら親は忙しいし、ウキウキしている。そのくせ、おばあちゃんが手術をするとか、眼がわるいと言っても、仕事が忙しいからついて行ってくれない。そのくせ、娘のこととなると一生懸命。
それが、一番鬱々するのだろう。
わかっていはいるが、皆、忙しい。
年寄りのことなんて、ほうったらかし。
それも、今は普通なのかもしれない。
わたしなんて、まるで親の世話などしていないが、それでもしていると言われる。へんだ。何かがおかしい。
まあ、なんでもいいや。
目先のことを片付けなければ・・・時間がない。