September 18, 2005

『Fine days―恋愛小説』 本多孝好著

本多孝好の『Fine days―恋愛小説』を読んだ。恋愛小説と書いてあるから恋愛小説なのかと思うけど、何も書いていなければミステリーと勘違いしたかもしれない。推理小説と言われて渡されれば少々物足りないかもしれないけど、恋愛小説と言われて渡されれば、藤堂志津子くらいのニュアンス。

一つ本多作品について感じたのは、とにかくあらゆる作家の小説を読み、その良いところを実に貪欲に吸収しアウトプットしていこうという意気込み。読んでいる途中でいろいろな作家の作品を思い出してしまったけれど、残念ながらわたしは以前どこかで詠んだことがあると漠然と感じただけで、具体的にどの作家のどの作品かを挙げることができない。


『Fine Days』は、高校生が主人公。キャラが強烈。それでいてどこにでもいそうな4人の高校生たち。”彼女”のたたりで屋上から飛び降り自殺をするなんて・・・これが推理小説ならもっともらしい推理が展開するのでしょうけど、恋愛であり、恋愛になりきれないどこか幼い部分が謎を謎のままやりきれなさに変わる。肉体的に強く、精神的に脆い安井という女の子が強烈。エピローグがさもありなんという風で好きだな。

『イエスタデイズ』は、テーマは”若い頃の親父”。癌で余命数ヶ月の父親に昔の恋人とお腹の中にいた子どもの消息を探すように頼まれた息子。35年間の父親の人生と、画家志望であったそれ以前の父親と、その恋人。タイムスリップし、異次元へ入り込む。そして、現実。

『眠りのための暖かな場所』は、ちょっと怖い小説。誰にも言えない罪を抱えながら育ってしまった人たちの心の苦しみと怯え。その恐怖から逃れられないがゆえに、誰も愛せない。誰も愛せないがゆえに平凡に生きることもできない。何のために死ななければならないのかがライトなタッチで書かれている。

『シェード』は、アンティーク家具屋に置かれたランプシェードにまつわる話が老婆により語られていく。ただそれだけのことなんだけど、ガラス細工と芸術との本質的な違い、職人の恋と魂と、終焉のない永遠。儚くも終わらない脆くも消えることのない形と心の違いが主人公の恋愛とともに綴られていく。眼に見えない何かを乗り越えて現実にしていくって案外大変なことなんだということを思い出す。


それにしてもよく勉強している作家。女性についても決して多くを語っているわけではないけれど、ズバッとイメージが入ってきてしまう。言葉遣いにしてもセリフだけでは男か女かわからない。恋愛小説と呼ぶほどの甘さやせつなさが欠如しているのは、そういう現代風な女性の生き様がクリアに描かれてしまいすぎているせいかもしれない。

投稿者 Blue Wind : September 18, 2005 01:17 AM | トラックバック
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?