図書館の貸し出し本を読むやうに釈超空の眼空走りぬ
しつとりとつまることばのうた書きは切れはしのうえ濁音は消ゆ
しんみりとみつまたのみち咲く花のふさふさとしたここち知るべし
わかれみち咲く花の名を訊きたしも君はいづこへ名をしづめたり
春や春。桜の花の散りゆかば花の散るみちダウンを羽織り。
夜の花、ぼんぼりのやうまるまって、すこしずつ散る。寒さもどり来。
オトくんの見えない朝はしづかなり。布団のなかにもぐりこむ犬。
猫なのか、と言いたくもなる寒がりの犬も震える桜の季節。
しんみりとクローンのやうなマリちゃんはもどらない犬。イエスさまのとこ。
誕生日、母の見舞いはどうするか、こころ走りてメールは来ない。
七十も重ね生きたかわが母は春を知らずにうんうん唸る。
冷えすぎの部屋の寒さにおどろきぬ。ただ雨が降る。それだけなのに。
白髪の皇太子には灰色の妃の似合う、あといく歳か。
密葬を見ているやうな挙式にぞいくたびか夢大空が月
桜にぞ罪はなかりき。花嫌ふわれの青き日もどりきぬ、雨。
躯にぞ布かれて春がやって来た。遠まわりして、静かな雨。
死に絶へた躯のみちをたどるやうたどたどしわれの心は
念を知る。呼ぶことだまを省みる、しらべのやうだ、ちいさな背中。
おぼろげに月が呼んだかかのひとをひときわ白く光る。汀の。