⇒トラステへのトラバ: 「愛」とは何ぞや?
「愛することは少しずつ死んでいくこと」というセリフは、モーリヤックの小説の中に出て来た言葉。わたしの記憶は定かではなく、たしかモーリヤック著作集第4巻の中に収録されていた小説に出て来たと思う。『愛の砂漠』だったかな・・・すでにタイトルもストーリーも忘れたのに、この言葉だけは深く心に残っている。
モーリヤックは人間の醜悪さを描くのが上手。それでいて神の愛を深く感じる不思議な作家。わたしは数年も前から読もうと思っているのに、まだ第1巻を読めない。数年どころか、どれくらいの月日を経ただろう。
愛というのは、むしろ受容的なものであり、愛されたら素直に受けるもの。それがどんなにか難しいことか。
ちょっとした誰かの親切とか、さりげないやさしさの中に愛はある。人のやさしさや思いやりを素直に受けられる人は幸せ。愛を学ぶ必要がない。
恋というのはむしろ相手に向かっていく感情である。誰かを好きになるというのはそういうことであり、相手を自分のものにしたいというベクトルは生きるための能動的な姿勢であり、命への姿勢。
ところが、愛は少しずつ死んでいくこと。少しずつ死を受け入れるように静かな世界。ごく自然にそこにあり、それでいてあまりにもありふれているために、ごく自然に受け入れられなくなるほど、人間は頑なになる。死を受け入れることを考えてみれば分かるだろう。それを素直に受け入れられる人たちがどれくらいいるだろうか。
愛するというのは、受け入れること。ごく自然に、生きることも死ぬこともすべて受け入れること。
そのどちらも難しいと感じるならば、すでに愛を受け入れることは難しく、愛を求めて徘徊しなければならない。生きるために恋をし、恋のために苦しむ。
著者: F. モーリヤック, 遠藤 周作, Francois Mauriacタイトル: モーリヤック著作集
* Amazonで検索したんですけど、すでに古いものは廃刊になってしまったのでしょうか。びっくりするくらい高い著作集が出てきました。