November 16, 2003

にんまりとどちらが好きと訊く吾子は選挙の声の真似をしてみせ

昼下がりターミネーター歩いても誰も気づかぬつくばの森よ
夕焼けのオレンジ色の輝けるそんな時間に真っ暗な吾

子と夫とのふたつ並んだ寝顔みておなじ角度と感心しせり
朝を待つ中途半端な時間にはカフェの曲だけ透きとほるよう

ひとかどに反抗的な自分にはしずかなうたが浮かびくるらむ

水槽で寝ている魚藻の揺るる飛び出すやうに群れは動けり

まいにちをドラマのように生きてみたいバーチャル泳ぐさかなは死なず
ハンドルをいくつかえてもおなじひと癖や匂ひややけこげの瑕疵
えにしなどチョキンと切って爽やかに涼んでみたいな潮騒の中
箱の中飛び出す歌の情けなさ切っても切ってもトカゲのしっぽ
青林檎りんごタルトの味がするこの酸っぱさは君のものだよ

飛び出そう広い世界へ無限大いのちの不思議在ることの意味

わが叫びどこかへとどけ知らぬ人電子は描く未来のみちを

掻き消して嫉妬のほのお子を語る愚かな女愛をほしがり
子をおもふ気持ち夫にいふ妻の手に高い飲み屋の請求書あり

ジャンキーのたはごとながめくるいだすくやしいといふかなしきをみゆ
死んだなら何にでもなるみほとけのたましいありき成仏できず
あらしとはかごとのうずのまよひごと知らぬかおして橋をのぼれり
生き地獄とほくにながむネットかな屍のまま土に横たえ

今日の鳥ご機嫌ななめに鳴いているラテンのリズムに合いの手入れて

けしの畑ふわふわ歩いていくようなまどろみのなか文字はあらわる
風船のはじけて飛ぶは針の穴はじける音にひとは驚き

片足を微かにひくわれを連れ海の世界をフィンでおしえり
赤信号六本木通りを渡りきる世界制覇の夜明けの渋谷
子どもなど要らないという君の嘘かへすがへすは日曜日に知る

ひとかどになまけ者の自分にはタイヤの音に雨を知りたる
やみゆくひ射す陽を待つや秋晴れのおそとの色のふいにかがやき

タイフーンいまかいまかとまつよりも知らないうちにニュースが告げた

おなじことなんどもはなすネットかなだれに言ったかおぼえていない
質問に自動にこたゆならいせい先生という宛名をながむ

あたへられし薔薇の花さえ君をまついつが春かは天のえそらに
歯を立てて無駄を知るなり人の世の生きる生きると魂の死す
閃光のきらめくような轟きへ導きたまえホーリー・スピリッツ
魂はわが人となり永久(とこしえ)に愛する人と共に生きたり
骸骨のにやりと笑う墓の中蓋は閉められ骨は踊れる

細胞に星をちりばめ生きるわれ土は星かな母なる海よ

悪夢より解放されしわれなればヨハネのごとく夢で叫べり
妄想の夢の中まで忍びよるむすめフテ寝す母のおバカに
妻の名を犬につけると騒いではウキウキしてる憐れなあいつ

月光のしづかに光る宇宙にはやみも光もないというらし
宇宙(そら)の色色相環のどまんなかベージュかグレーありてなき色

真夜中に空手見るため夫を起こすソファにごろ寝明日まで待てず
惑星の浮かんだようなピアノ曲ソファの向こうに空手番組
極真を検索しろとせっつかれ早く寝てよと箱を案ずる
住む世界ちがうと思って20年うすらぼんやり星はまわ〜る

あまりにもつまらぬことの多ければひねもす流るるジャズを聴きたり
ヘデラよりすっくと伸びる萩の花のこり僅かに紅紫咲く
陽だまりにのんびりジャズとコーヒーで今日の気分を占うかな
たちのぼる朝霧どこやいずるやと午後の晴天草ゆれるだけ

月にさえ裏と表があるのなら狂気の夜もしづかにひかる
おもてがおあるよ月にとひの照らす色なき世界なぜにやみめく

半島にぽっかり浮かんだ白い月青青い空雲さえ見えぬ

閑散と空室ならぶ青山を吾子の手を引き懐かしくもなく
そのやうに生きたいのならそのやうに生きる世界が与へられなくに

銀河系太陽といふ星に住むその人ならば核もむなしく

惰眠するそばに来てまで話すなよ きのうの話のつづきのつづき

自由すら不自由であり囲いする狭き自分の生簀の庭よ

アラビアのサウンド聴いてミントチャイ裏の店なら600円なり

堤燈を吾子は知らぬや夏祭り小さなろうの手に入れざらまし
こうこうと明かりの燈る夜道は白きカーテン空にひきたり
ぱちくりとつぶらな瞳ゆびちゅぱのなおらぬ吾子のなにを見つむる

へそ曲がり言っても無駄な屁理屈を暖簾相手に曙っぽく

生きるのに活字のいらぬ生活の通じぬ言葉のありがたきかな
風ほしく雨のいらぬやふねのなかかわれる海のいろ眺めたり

すきとほるやうな空なり見つめれば紺にも黒にも白い満月

アラビアの女になれば見えるのは黒きベールと瞳だけかな

包帯をミイラのように巻きたるも車椅子乗る人の明るき

いつのまにスプレーマムの咲きたるや種のどこから来たりしものかな

時はなおガラスのように崩れ去り 轟きに泣き 震撼に泣く

朝起きて今日が別れになったらとうすき陽炎たちのぼりゆく

ひねもすを書くともなしに書いているつぶやきなるをうたといふのか
詠もうとて詠うているわけでなしああこの時間地震のとどろく
関東の揺れるは日課歩きたる娘はなぜに地震にきづかぬ
真夜中に大揺れしても気づかない寝息高らかのんきな親子
震災の対応悪さ怒れども国会議事堂東京にあり
ものかきといふ職業の人たちは職場にひとつ缶入りのハム

庭に啼く奇妙なことりピーピーとたれに話すかわれはこたえぬ

いくつものこころの墓場のぞいては墓石の文字の雨に打たれり

生簀の鯉泳ぐをながむ優雅さにバリのホテルでサンダル鳴らす

アンニュイに画面ながめてむせびをり草はゆれたり弧を描きつつ

すいすいとおよぐさかなを見てくれる隣の人に感謝をおぼゆ

いたずらに書初めしたる父の文字机の中にしづもれながら
吾が過去を探検しせり書斎部屋吾子知らぬ吾を友がみつけり
想い出のたくさんつまった本棚に探検家らの無邪気な奇声
過去の名を書棚の隅より見出されわが名を不意に思い出したり
母といふ名もなき吾にあたはれた姓とはたれの名と今をみつめる
子もなくば母といふ吾なかりせり母といふ吾吾子と生きたる
夫がいてぞ妻と呼ばれるわれのあり彼の人なきは虚空の藻屑

いろのない口紅つけて似合わずに青白いかおに鮮やかな紅
パール入りヘレナ・ルビンシュタインの小瓶のかたちにいまを感ずる
シンプルな紅い器のひかりたる過去のルージュのベージュに変はり
ささやかに変化したりもかたくなにとつぜんかわる大胆ルージュ

マヨ味のかっぱえびせん柿入りのマリネに挑戦不評に終はる
柿ひとつサーモンマリネに落とすだけ何かがかわり何もかわらず

またひとつ銀河の果てに星ひかる128億光年超す
あの星に願いをかけてみたけれどなん億光年さきのことかな

清らなる幼子の手に握られた野のコスモスの季節を告げる
公園の傍の空き地に咲く花のいろどりの風たれをしのびて
今もなおブルーサルビアしだれたるウッドデッキの朽ちれるままに
風よ風 吹けよ吹け吹け野に山に我が家の庭にも見知らぬ花
ひょっこりと花を咲かせりスプレーマム君はどこからおとづれたるか
寒椿今年はいつに咲くのかと冬を待ちたるここちするかな

乱れゆく言葉の波の押し寄する荒き浜にて波はかへりぬ
枯れ草の春を待ちたる野の夢の新芽の出るをしづかに待ちぬ

セクハラも極めてしまえば九里の歌きょうもきょうとて鐘がなるなる
脳ペンギン無限の宇宙をさすらへば永遠(とは)の夢にぞあはれをわする

巻き舌の歌の鳴るなりけふの朝ラテンイタリア英語と笛と
君のことラテンフレンチドゥドゥと勝手に呼ぶとセクハラとなり
フラウといふ宛名にかしぐ若き頃ミセスと訳すを間違いと知る
妻といふ訳語をもたぬフレンチの少なき語彙にあまた意味あり
vousとduでは表情さえもちがふのでduの人あてにvousで応えたり
セクハラもラテンとおもへばなんのそのしつこさだけがちがふと知るぞ
カンツォーネ今日の昼にはあますぎる時代遅れの県立記念日

澄みゆかむ遠きむかしの想い出はあれよあれよと風に変われり
風のごと息し風さえむせびゆく有害としるシガーのけむり
にんまりとどちらが好きと訊く吾子は選挙の声の真似をしてみせ
おじさんと知るやかなしき宣伝カー オウムでさえもギャルを乗せたり
歌詠みのいつ尽きぬとも呟きは明日があるとは思はぬ今日に

土浦に初めてやつてきた日には店の8時に閉まるにおどろき
浦のそばマンションの立つ川面には三段跳びする鯉におどろき
アマゾンの巨大な蚊かと思う蚊はフラフラ飛ぶやたよりなきまま
吾子抱きて地下鉄に乗りぼんやりと眠れる人のすがたの映る
常磐線慣れぬ言葉の広がるも席立ちゆくや目の前の人
危ないと叱られし傘吾子の前「あんたが母か」とじいさんわらう
ベビーカーのんびり押してお買い物見知らぬ人が吾子あやしたり
デパートで迷子になるも日課かな手を引かれつつ吾子のもどれり
ふるさとの言葉の意味をまなびたる見知らぬ街のゆきかうひとに
つくばねのロケットのそば住みたしと川面の街を不意に飛び出し
飛び出せば見知らぬ世界のわれを待つ宇宙も忍者もつくばねの地に

荒波の打ち寄す西の岸辺では太陽さえも雲に覆われ
風つよきデッキの窓の覆われる海側の部屋雨季のタイかな
ハンモック忘れ去られり風の中誰もいずともふんわりゆらる
常夏の東海岸プーケット海中の橋のんびり渡る
小魚の影のゆれたり海の中かがみこむひと避けて通れぬ
輝ける海を背にしたウェディング軍服の婿花嫁を抱き
正装の輝くシルク黄金色先頭あるく美しき女(ひと)
砂浜を高いヒールで歩くのを遠目にながめ海は広がる

鮮烈な月の光の覆わるる北の空から雲の流るる

落陽の海の向こうの島影にいつ沈むやと缶ジュース飲み
二人乗りバイクの音の鳴り渡る島の外れのサウンドの中
コンビニの閑散とした店の中みやげもの見て一周したる
モンスーン吹き荒るる海白砂を削りてやまぬ坂道の浜
この海のなだらかな顔そしらぬと打ちくる波の泡立ちやまぬ
嵐とはかくもつづきぬ晴天の浜辺の風の凄まじきかな
うららかな日差しの中を馬歩く荒れ狂う波そしらぬ顔で
モンスーン慣れてしまえば気にならぬヤシのパラソル風に吹かれて
闇のなか激しい雨の降りつづくヤモリの歩くヤシの葉のうえ

おなじ浜かよいて詠う歌詠みのうつろう波をじつと見つめり
海の声風のささやき一晩中朝な夕なと朝な夕なと
覆われた雲の晴れ間を待ちぼうけ薄日の中で日はくりかへし
あの山を越えれば何が待つやもと幼き日には山とも思わず

あの海にそそぐ流れのひとしずくわれの涙かとほおくの雨か
今は秋雪の便りに驚きつ常夏気分でトーマス・ラング
晩秋の青き風吹く空あおぎ明日はどうなるものかとおもひ
ああこれが恋といふものと初恋のふんわり浮かぶ或る日の朝に

あの星のさきにも広がる空間のはてしなき夢ひとはすすめり
夢ならば光よりさきにとどくかな星の彼方へ願いをのせて

ふにゃふにゃに融けた白菜なべの中しんなり梨の冷えて眠れる
生まれてはやがて消えゆく生き物の変はり果てたる冷蔵庫かな
そらの雨いつしか土にしみゐたり花つゆひかりはじけるをみる
死後のことあれこれおもふさだめかなひとと生まれしつゆになるやも
雨粒をひとひら憂くし彼の人のかはりになるか人といふもの
純粋に生きるをかたくおもはなばそらの雨さえ塵をふくみし
夕やけのなぜにあかあか輝くと空気に訊くや雨そら見あげ

はらはらと季節外れの詩をながむ中也と昼夜をおもひてうたふ

投稿者 Blue Wind : November 16, 2003 12:15 AM
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