June 12, 2007

老後事情

今はまだ実感が湧かないけれども、大変な世の中になってきたことだけはわかる。どんどん高齢者は増える一方なのに、高齢者の居場所がない。病院はすでに慢性病床は消えつつあり、寝たきりの人たちは医療を行わない施設か自宅で死を迎えることになる。

自宅に家族か付き添いの人たちがいて、在宅の医師が夜中でも来てくれる人は幸せだ。そういう風にしようとばかりに世の中が動き始めていることだけは何となくわかる。だけど、誰がそれをするのだろう? 勤務医は病床を持っているだけでも大変だから、今度はそれを開業医がやれという。開業医だって昼間は外来がある。在宅のように予約制なら回れるかもしれないが、実際にはそういう人たちはすぐに容態が変わるため、常に24時間呼び出される覚悟がなければ在宅などできない。とすれば、医師一人で診れる患者の数には限界があり、しかもそれをやるためにはやるための法的な規制があり、体制や職員の確保などを考えると、一体誰がそれをするのだろうかと悩んでしまう。

先に開業したダンナの同僚は、大阪で100坪で開院した。大学のサテライトという話だったが、実際にはコンサルがついて、100坪のうち30坪はまるで使っていない空間で、来院患者数が増えれば整形外科が行っているようなリハビリなどをするスペースになったのかもしれないが、実際には在宅と往診で何とかやりくりしているそう。何のために高い医療機器を買い、設備を整えたのかわからない。わたしがコンサルだったらまずは機械などには投資せず、在宅から始めることを勧めるだろう。

が、しかし、長い間病院に勤めていると、治療するにはあれも必要これも必要ということになり、それでも最低限度のものしか揃えていない、と口々で言う。ところがいざ開業すると、その手のシロモノはまるで不要で、本当の意味で治療の必要な人たちは病床のあるところ、つまり病院へ行かざるを得ない。

それではどうしたらよいか?
結局、自由診療をやれ、という風潮になる。そのくせ、保険診療と自由診療はまったく別々に算定しなければならず、混合は認められていない。それを負担できるような人なら別だけど、今はどういうわけか単なるコンタクトの処方にも病名のつく時代で、病気でもない人たちが病院へ行かなければならないらしい。

どうするのかな・・・

わたし的にはもうこれ以上投資を増やしたり職員の数を増やしたり、勤務時間を24時間制にするつもりはない。それでいて保険点数はどんどん減らされるらしいし、以前だったら医局に相談すれば誰かアルバイトの医者を送ってくれたものだけど、今はあちらはあちらで研修医の数が減り、おのずと慢性的に人手不足の状態だから、これ以上は無理だという。

どこもかしこも混乱していて話にならない。

そこで医者を必要としない介護施設などがあちこちで出来、今度はどういうわけかそういうところが慢性的に赤字らしい。茨城県ではすでに認可が下りないほど数が増えてしまったという話を聞く。ニーズはあるはずなのに実際のニーズがないのは、茨城の場合、自宅で介護しているところが多いからだというが、都会ではどういうことになっているのかわからない。わたしの知る限り、そういう高齢者のための施設はおそろしく高いか、自然の豊かな辺鄙なところにあるかのどちらか。高齢者ほどスーパーや医者がすぐ近くにあるような便利なところに住みたがることを考えると、何かどこかが違っているのだろう。

誰が自ら好んで、家族から離れてそういうさびしい施設へ行くのか、誰か知っていたら教えてほしい。

かと思えば、老健施設やベンチャーと共同で開院するところも増えてはいるけれども、来院数は普通に開業したところのほうが遥かにまし。理由は知らない。診療所というのはあくまでも医療を行うところだから、利用者の側に自由診療というものに対してのキャパがないような気がする。

自分が年をとったときのことを考えると、おそらくは元気だったらあちら、治療が必要だったこちら、という具合に勝手に振り分けられてたらいまわしにされ、それに伴い家族が一緒に振り回されるか、放り出されるかのどちらかしかない。それか、ひたすら自宅に篭って医者には行かないようにするしか逃れる道はないのかも。

投稿者 Blue Wind : June 12, 2007 12:46 AM | トラックバック
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