January 17, 2004

巨大なジグソーパズル

魂の入った文章を文字に表すことは難しい。単なる記述であれば規則による言語の羅列があり、例えば、機械語はそれこそ記号が1つ抜けただけですべてが動かなくなるという恐ろしさがある代わりに正確に羅列すればその通りに実行してくれる。画像を貼るにはこれ、ハイパーリンクを貼るにはこれ、という具合に極めて余分な要素はなく、換言することなどほとんど不可能だ。HTMLで書かないでスタイルシートを使うくらいの言い換えだろうか。実際のところ機械と話すには言葉を知らなさすぎるために多くの会話は望めない。

それに比べて、短歌を英訳するとか、ユゴーを和訳するとなるとそれこそ地獄の苦しみだ。それでも、ジグソーパズルを解くようで面白い。言いたいことはわかる。でも、それをどうやって日本語で、というよりも自分の少ないボキャブラリーで表現してよいのかわからない。短歌でも、口語訳ってなると、どうしてあんなにも言葉がたくさん必要になってしまうのだろうと思うくらいだ。つまりは、少ない言葉の中にたくさんの意味や情景や余韻が含まれているために、そのニュアンスを伝えようとすると、あまりにもたくさんの言葉が必要となり、それでいて何かを伝えきれていないもどかしさを感じることが多い。
ユゴーと遊んでいるうちに、あるいは、それを翻訳したハップグッドと遊んでいるのかもしれないし、微妙な言い回しが浮かばない。しかも案外手抜きのところは手抜きのために、誤訳も多い。1つの単語の中にいろいろな意味があるのだもの・・・日本語にすると。それを適切に著者の言いたいことを表現するというのは極めて困難。元々の言語や発想、語源などが共通していれば違うのかもしれないけど、とにかく共通性というものが少ないためにそれにふさわしい文字を探すのが大変。
というわけで、単なる序文なのに3日も費やしてしまった。
しかも・・・・
単なる目次を訳すのに、英和辞典2冊、仏和辞典、広辞苑。20年以上前に買ってお蔵入りしていた英和辞典が今頃少し役に立つとは。英和辞典は、センスだからね・・・言葉選びのセンス。だから、使う辞書によってまったく違った訳文が完成してしまう。自分との相性が大切なんでしょうし、『レ・ミゼラブル』の英訳だと、英語、フランス語、ラテン語を調べなければならなくなる。気のきいた言い回しとしてちょこっとラテン語が入っているだけでもこちらは七転八倒。インスピレーションが大切なのではないかと思ってしまう。

なんで突然こんなことを始めてしまったのかというと、まさにこれも流れの中の1つとしか語れない。短歌を詠み始めて、神父さんのサイトへ行き着いて、さらにあらし騒動にも巻き込まれ、気が付いたら今度は『レ・ミゼラブル』だという・・・
短歌にも機械にも興味がなく、神父さんの授業も忍者のように抜け出していた学生時代を振り返ると、21世紀になって以来どうも自分はヘンだという気がしてしまう。単に自分がババアになったのかもしれないし、それでいて『レ・ミゼラブル』は巨大なジグソーパズルのようで、これがまた面白い。小さなピースがピタっと巨大な絵の一部に納まったときの快感は説明の仕様がない。2,000ピースや4,000ピースではすでに物足りないからすっかりやめてしまっていた。ラッセンの青一面の世界なら楽しめそうだと思ったけど、思っていたほど難しくもなく、2枚くらい仕上げてやめてしまった。カラフルな魚の部分があまりにも簡単すぎたのかもしれない。

短歌もね・・・・なんでもありい、なんだよね。
つまりは、なんでもありいだからこそ大変なのだということに気が付いてしまったとたん、逆になんでもありいの部分を捨てたくなってしまう。かといって、今さら精神世界がどうたらこうたらとか、こころがどうたらこうたらなんて飽き飽きだ。そんなものは数字で並べて切って落としちまえとすら思ってしまう。数字で並べて切って落とせる部分はどんどん落とす。そして、残ったところがきっと魂。みんなが、こころこころと騒ぐこころは単なる物体だ。数値化して、故障したら薬で治す。でも、雰囲気とか気配とか、人格とか知性とか、つまりは数値化できそうでできない部分が魂。知性と知能はまったく違う。そういうすべてをトータルして人は人として存在しているんでしょうけど、精神は幻ではない。

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Les Miserables

『レ・ミゼラブル』

VOLUME I.

FANTINE.

第一巻 ファンティーヌ

PREFACE

序文


So long as there shall exist, by virtue of law and custom, decrees of
damnation pronounced by society, artificially creating hells amid

神さまのお定めになった人の運命を多少加味したとしても、
法や慣習によって、社会が誰かに言い渡す地獄へ落ちろという今畜生判決、
すなわち地球の文明の真っただ中に人工的に創り出される地獄があるかぎり、

the civilization of earth, and adding the element of human fate to
divine destiny; so long as the three great problems of the century--
the degradation of man through pauperism, the corruption of woman

あるいは貧困による男性の品位(品性)の低下、飢餓による女性の汚職(売春)、
希望の光の欠如による子どもの無力化(非行)といった
3つの世紀の大問題があるかぎり、

through hunger, the crippling of children through lack of light--
are unsolved; so long as social asphyxia is possible in any part

さらには世界のどこかで窒息しそうな社会が存在する可能性があるかぎり、

of the world;--in other words, and with a still wider significance,

少し意味を広げて言い換えれば、

so long as ignorance and poverty exist on earth, books of the nature
of Les Miserables cannot fail to be of use.

地球上に無知と貧困があるかぎり、
『レ・ミゼラブル』の著書の本質が役に立たなくなるということは決してないだろう。

HAUTEVILLE HOUSE, 1862.

オート村の家にて、1862年。

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今畜生判決という言葉を捜すのに3日もかかってしまった。
こう・・・・罵るような言い回しを探したんだけど、それに相当する言葉が日本語には見つからない。一語に含まれたニュアンスって意味はわかっても伝えるのが難しい。
それにしても、人によって訳すと全然違った文章に見えるから不思議。オリジナルの文章は同じなのに、訳す人次第でこんなにも違うのかと思ってしまいました。(余談)

投稿者 Blue Wind : January 17, 2004 12:43 AM
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