曇天の雲の切れ間のあさひよりCDショップのあかりまばゆき
わざわひのふりてやまぬや雪の日をおもひて泣くや小春日和に
◇数年前の冬
当たり屋にやられて師走警察へ駆け込み逃げる酔っ払いかな
3分後家から遠い通り端夫呼び出すフィリピン妻
カタコトの日本語さえもとつぜんに通じないらし警官の前
恐喝と免許停止とえらび泣く夫にあきれども送迎の冬
小野リサとジョアン・ジルベルトを比べてはブルーノートの調べつづきぬ
『声とギター』かそけき調べボサノバは甘きラッパかフレンチジャズへか
『声とギター』アコースティックに響くボッサ、半世紀前のジョアンに逢はむ
気まぐれに融合するは人といふレセプター中とほす幻影
芸性をセカンドアートにことほぎぬ凡庸なわれ空白にあり
平和だと言える朝には霧の中カラスの声の高らか笑う
過酷だと言える夜にはセールスのトークが続く食べ頃の鍋
喉の奥耳までつづくメンソール頭の中へチョコミント味
悲しみにつぶれちまつた悲しみの方程式は化学記号か
はやも来ぬピラカンサにもクリスマス隣家の庭にあかりのともり
街路樹のライトアップの季節かな薄闇の中聖夜もちかし
音もなくしづかにライト瞬けば飾りすくなにリボンの増えゆ
ゆきくれて紛争イラクどうなるや世の乱れたる海外派兵
ずっと前から知っている或る朝は銀の蓋さえ重く閉ざされ
プラズマの走るがごとく中也の詩空中散歩に吾を誘ひ